慶応義塾大学、偽・誤情報対策で広告主向け倫理規定案を公表
インターネット広告の収益構造が偽・誤情報の拡散を後押しするなか、慶応義塾大学の研究者らは16日、広告主が守るべき倫理規定案を示した。閲覧数偏重の配信や効果測定を見直し、適切な出稿先の選定を通じて情報空間の健全化につなげる狙いがある。
ハイライト
- 慶応義塾大学は2024年内に、AI時代のデジタル広告倫理規定案を広告主やSNS事業者向けに正式化する方針を示した。
- 2025年の日本のネット広告市場規模は4兆459億円と初の4兆円台に拡大し、広告市場全体(8兆623億円)の半分超を占める見通し。
- 2025年のSNS投資詐欺認知件数は9523件、被害額1288億円となり、いずれも2024年比1.5倍と急増している。
倫理規定案の骨子と新組織設立
日本経済新聞が伝えたところによると、慶応義塾大学の研究者らは同日に開いたイベントで「AI(人工知能)時代のデジタル広告倫理ビジョン」の骨子案を公表した。広告主やSNS事業者が守るべき6つの行動指針として整理し、年内にも正式に取りまとめる方針だ。規定案は、閲覧数に応じて収入が増えるアテンション獲得競争に便乗しないことを重視する。広告主が配信先や配信方法を把握して適切に対応し、閲覧数以外の指標で広告効果を測る方法を検討することで、過剰なアクセス数競争に一定の歯止めをかけることを目指す。
骨子案をまとめた山本龍彦教授はイベントで、偽・誤情報を含むサイトへの広告掲載はブランド毀損につながり、「企業の経済活動にも損失を与えている」と指摘した。今後は慶応義塾大学が中心となり、広告主やSNS事業者、クリエーター、報道機関などが参加する新組織を設立し、倫理規定の実現や健全な情報空間の構築を進める。
新組織では、信頼性の高い情報発信者が適切に評価される仕組みづくりや、SNSのリスク分析に関する共同研究に取り組む予定だ。事務局長を務める予定の水谷瑛嗣郎准教授は、広告が質の高いコンテンツへのアクセスを支えてきたとしたうえで、「真面目にコンテンツを作る正直者が損をするエコシステムを変えていきたい」と話している。
広告市場拡大と情報空間への影響
背景には、表示回数に連動するネット広告の収益モデルがある。SNSでは真偽不明の情報や誹謗中傷を含む刺激的な投稿ほど拡散しやすく、アクセス数を稼ぎやすい構造が続いている。電通によると、2025年の総広告費は8兆623億円で、このうちネット広告は4兆459億円と初めて4兆円台に達し、市場全体をけん引している。ネット広告が広告市場の半分超を占めるなか、広告主の出稿判断は流通する情報の質にも影響を与える可能性がある。
偽広告による被害も深刻化している。警察庁によると、なりすましによるSNS投資詐欺は2025年の認知件数が9523件、被害額が1288億円となり、件数、金額ともに2024年の1.5倍に増えている。
生成AIの普及でコンテンツ作成が容易になり、ボットによるクリック数稼ぎや、直接取材せずネット上の情報を集めて作成する「コタツ記事」の乱造につながるとの懸念も出ている。今回の取り組みは、産学連携でこうした課題に対応し、広告市場の成長と情報の信頼性を両立させる枠組みづくりを促す動きといえる。
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