日本の老後資金試算、インフレで再拡大の可能性

日本の老後資金試算、インフレで再拡大の可能性
老後資金インフレ再拡大

2019年に広がった「老後2000万円」問題は、同じ計算ロジックでも家計調査の年次によって必要額が大きく変動する構図が改めて示されている。足元では物価上昇が家計を圧迫する一方、公的年金の増額改定が一部を相殺しており、老後資金の目安は固定値ではなく変動指標として捉える必要がある。

ハイライト

  • 金融庁ワーキング・グループの老後資金必要額は、2017年時点で2000万円だったが、2019年には1188万円へ大幅低下した。
  • 新型コロナ後の支出回復とインフレで老後資金必要額は2021年667万円、2023年1365万円、2025年1528万円と増加トレンド。
  • 2025年の物価上昇率3.2%が年金改定率2.0%を上回る見通しで、2026年以降は『老後2000万円』や将来的に『老後4000万円』への再拡大リスクが指摘されている。

年次データで揺れる必要額

日経BOOKプラスに再構成された山崎俊輔氏の新刊抜粋によると、「老後2000万円」の根拠となった金融庁ワーキング・グループの報告書は2017年の家計調査年報をベースにしている。一方、2019年の家計調査年報を同じロジックで当てはめると必要額は「老後1188万円」となり、当時の定説より大きく低い水準になる。

記事では、年金生活夫婦の毎月の不足額が調査年ごとに大きくぶれるため、「老後××万円」という試算自体が毎年変わると説明している。2019年以降は一度も必要額が2000万円を上回っていないとされ、老後資金の議論では単年データの切り取りではなく、長期の生活設計と前提条件の確認が重要になる。

コロナ後の支出回復とインフレ圧力

コロナ禍では外出自粛で教養娯楽費や交際費が減り、さらに定額給付金が加わったことで、2020年の年金生活夫婦の家計は月1111円の黒字となった。その結果、機械的な計算では「老後に黒字40万円」となり、旅行や娯楽などの支出が老後資金の不足額を大きく左右することが浮き彫りになった。

その後は生活正常化とともに不足額が再び拡大し、2021年は667万円、2022年は802万円、2023年は1365万円、2024年は1226万円と試算が動いている。2025年の最新データでは「老後1528万円」まで増え、2026年度の年金改定率はプラス2.0%にとどまる一方、2025年の物価上昇率はプラス3.2%とされるため、今後は支出増が年金の伸びを上回る可能性がある。

記事は、2026年か2027年に「老後2000万円」が再び現実味を帯びる可能性があるとみる。同時に、物価上昇が長期化すれば将来的に「老後4000万円」の世界も視野に入るとしており、退職後資産の準備ではインフレ前提の見直しが金融リテール分野の重要テーマになりそうだ。

当社の以前の記事では、日本の3月の実質賃金がプラスに転じ、名目賃金や所定内給与も高い伸びを示したことを整理しました。あわせて、円安やエネルギー価格の動きが物価上昇圧力を左右し、日銀が賃金とインフレの定着を見極めながら金融政策を判断している点も解説しています。

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