世界の海上物流、24のチョークポイントが貿易停滞リスクを拡大
中東の軍事衝突を受けてホルムズ海峡が事実上封鎖され、世界貿易の脆弱性が海上輸送の要衝で改めて意識されている。代替航路がない海峡から大幅な迂回を迫る運河、短距離で迂回できても海賊や地政学リスクを抱える海域まで、物流とエネルギー供給に影響する急所は世界に24カ所ある。
ハイライト
- ホルムズ海峡は2025年1〜6月に日量2090万バレルが通過し、世界原油供給の2割を占める主要リスク要因となっている。
- 代替航路が不十分な中、スエズ運河やバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖時には日本向け所要日数が2.5倍の約50日となり物流コストが大幅上昇する。
- 2025年1〜6月のマラッカ海峡での海賊事件数は前年同期比3.8倍の80件に急増し、海上輸送リスクが拡大している。
ホルムズ海峡封鎖が示す海上物流の集中リスク
日本経済新聞の分析では、船舶分析サービス「マリントラフィック」のデータと、デルフト工科大学のヤスパー・フェルスフール助教授らが2025年に公表した論文を基に、世界の主要な海上チョークポイントのリスクを整理している。特に代替航路がない4カ所は、封鎖時の経済的打撃が最も大きい海域として位置づけられる。
代表例のホルムズ海峡は、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶエネルギー輸送の要衝だ。米エネルギー情報局によると、2025年1〜6月に同海峡を通過した原油と石油製品は日量2090万バレルで、世界供給の2割を占める。その9割がアジア・オセアニア向けで、中国、インド、日本、韓国への供給比重が高い。
米国とイスラエルが2月末にイランを攻撃して以降、イランはホルムズ海峡を封鎖し、4月以降は米国がイラン港湾への船舶出入りを妨げる「逆封鎖」に踏み切っている。日本船主協会によると、4月14日時点でペルシャ湾内には日本関係の船舶42隻が停泊している。ボスポラス海峡はロシアとウクライナの軍事衝突、渤海海峡は気象条件による通航停滞のリスクを抱え、代替路を欠く海域の脆弱性が改めて浮き彫りになっている。
フェルスフール助教授は、ホルムズ海峡について国家間の紛争が長期的な混乱を招き、大きな経済損失につながると分析している。中東情勢を調査するアルマ研究教育センターも、イランが2025年8月などに周辺海域で軍事演習を実施し、海峡封鎖能力を構築してきたと説明している。
迂回コストと供給網再編の圧力
封鎖時に代替は可能でも大幅な迂回が必要なチョークポイントは6カ所ある。紅海の出入り口にあるバブ・エル・マンデブ海峡では、米運輸省海事局が3月下旬、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による攻撃の恐れを通航船舶に警告している。日本の海運各社は2023年から同海峡を通るルートの利用を停止している。ホルムズ海峡が機能不全に陥るなかで紅海の港湾から資源を運び出す案も取り沙汰されるが、バブ・エル・マンデブ海峡も使えなければ、スエズ運河経由で喜望峰を大きく回る必要がある。日本までの所要日数は約50日と、通常ルートの約2.5倍に膨らむ。日本船主協会の長沢仁志会長は3月末の定例記者会見で、代替ルートについて「環境が整い次第考えないといけない」と述べている。
人工水路の運河も物流停滞の増幅要因となる。スエズ運河では2021年3月、大型コンテナ船の座礁で400隻超が通過できなくなり、1カ月後にはアジア発北米向けコンテナ船運賃が1割上昇した。パナマ運河でも近年、干ばつによる水位低下で通航数や積載量の制限、運賃引き上げが起き、米国産トウモロコシや大豆の輸送に支障が生じ、日本の飼料や大豆食品の値上げにつながっている。
短距離で迂回できる14カ所にも別のリスクがある。世界の海上貿易で依存度が最も高いとされるマラッカ海峡では、2025年に通航量増加を背景に海賊行為が急増した。ReCAAP情報共有センターによると、2025年1〜6月の事件数は前年同期比3.8倍の80件に達した。台湾海峡も東アジア貿易の重要航路だが、中国軍の軍事演習などで不透明感が続く。軍事衝突や保護主義による分断が広がるなか、企業にはチョークポイント閉塞を前提にした調達先と物流網の多角化戦略が一段と求められている。
重要鉱物の供給網強化に向けた日本の資金拠出について、当社の以前の記事で整理しました。日本はG7の枠組みのもと、ADBやIDBへの拠出を通じて新興国での資源開発・加工を後押しし、レアアースやリチウムなどで対中依存を下げる調達先の多様化を狙っています。
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